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「処分禁止(処分の制限)の登記」をする理由は、例えば、裁判で所有権について係争中の場合に、仮に裁判で勝ったとしても、相手方に先に登記されてしまうと、対抗力では負けてしまいます。
そんな事態を避けるため、民事保全法に基づき、仮に処分の制限をかけ、それを登記しておきます。
この処分禁止(処分の制限)の登記は、次の3つの場合があります。
・所有権以外の権利の移転・抹消の「処分の制限」
・所有権以外の権利の保存・設定・変更の「処分の制限」
この登記のことを「処分禁止の仮処分」といいます。
今回の記事では、この「処分禁止の仮処分」についてを、3つの場合に分けてくわしく解説しています。
『職権登記・嘱託登記・申請による抹消登記』の中にも、『処分禁止(処分の制限)の登記』についてくわしく解説しています。 下記のリンクからどうぞ▼ |
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00 処分禁止の仮処分登記を入れる理由イラスト解説図
なぜ、処分禁止の仮処分登記を入れるか?その理由をイラストで解説します。
・WIN 処分禁止の仮処分登記を入れた場合
LOSE 処分禁止の仮処分登記を入れてなかった場合
※実は、Bには良くないうわさもあり、Aは少々不安ではありましたが、仮処分登記は入れてませんでした。
→そこで、Aは、民事訴訟で訴えることにしました。
Aは、訴訟では勝訴したものの、対抗力ではCに負けてしまいます。
WIN!処分禁止の仮処分登記を入れた場合
※Aは密かに、民事保全法に基づき、裁判所へ申請していました。
現状での、登記記録は次のようになります。
この場合の登記記録は、次のようになります。
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01 所有権に関する処分の制限
「所有権に関する処分の制限」とは、例えば、
②でも、どうやらBはCに対しても二重譲渡しているようだった。
③もしもCに所有権移転登記が入ってしまったら、いくら民事訴訟で勝訴したとしても、登記の無いAは、登記しているCには対抗できない。
④そこで、Aは、民事保全法に基づき、「所有権移転登記の請求権」を保全するための「仮処分命令」を得た。
⑤そして、Aは「処分禁止の仮処分」登記を入れることができた。
甲区に処分禁止の登記
「所有権に関する処分の制限」である「処分禁止の仮処分」登記とは、具体的には次のようなイメージになります。
【下記の登記記録のながれ】
②BとAとの間で売買契約が成立し、Aは「所有権移転登記の請求権」を保全するため、「仮処分命令」を得ることができた。
③甲区3番に「処分禁止の仮処分」登記が、書記官の嘱託登記によってなされた。
④危惧していたとおり、売主BはCに対して二重譲渡し、Cが所有権移転登記を入れた。
※①~④は、青枠内の文言と対応しています。
甲 区 | ||
2 | 所有権移転 ① | 所有者 B |
3 | 処分禁止の仮処分 ②③ | 原因日付: 年 月 日 〇〇地方裁判所仮処分命令 債権者 A |
4 | 所有権移転 ④ | 原因 年月日売買 所有者 C |
▼
⑥ ” 処分禁止の登記に後れる登記 ” である甲区4番の所有権Cを抹消することができる。
⑦登記官が、甲区3番の仮処分登記を職権抹消してくれる。
甲 区 | ||
2 | 所有権移転 |
所有者 B |
3 | 処分禁止の仮処分 ⑦ | 原因日付: 年 月 日 〇〇地方裁判所仮処分命令 債権者 A |
4 | 所有権移転 ⑥ | 原因 年月日売買 所有者 C |
5 | 4番所有権抹消 ⑥ |
原因 仮処分による失効 |
6 | 所有権移転 ⑤ |
原因 年月日売買 所有者 A |
7 | 3番仮処分登記抹消 ⑦ |
仮処分の目的達成により 年 月 日登記 |
※赤い文字:登記官による職権抹消
※下線は、「抹消された」という意味
このように「保全すべき登記請求権」である「甲区6番所有権移転登記」と同時に、
” 処分禁止の登記に後れる登記(甲区4番所有権) ” を抹消することができます。
そして、『甲区5番:甲区4番所有権抹消』と『甲区6番:所有権移転』が同時になされると、登記官が『甲区3番:処分禁止の仮処分登記』は職権抹消してくれます。
後れる登記でも抹消できない登記
上記のケースでは、「処分禁止の登記に後れる登記」は、「保全すべき登記請求権の登記と同時に抹消」することができました。
しかし、同じ「処分禁止の登記に後れる登記」でも、抹消できないケースがあります。
【事例】
甲区 | 乙区 | ||
1 | 所有権保存 A |
1 | 抵当権設定 X ① |
2
付記1号 |
所有権移転登記請求権仮登記 B |
||
処分禁止の仮処分 B ② |
|||
3 | 差押え(競売開始決定に係る差押え) X ③ |
一見すると、「甲区3番:差押え登記 X」は、「処分禁止の登記に後れる登記」に見えますが、そもそも、Xは、処分禁止の仮処分より前に設定登記された抵当権者です。
なので、そのXを申立人とする「甲区3番差押え」登記は、たとえ「処分禁止の登記に後れる登記」であったとしても、Bが抹消することはできません。
処分禁止の登記は誰が抹消するか?
「処分禁止の登記」を抹消するのは、場合によって、誰が抹消するのかが違ってきます。
→登記官の職権により「処分禁止の登記」は抹消される。
→仮処分債権者の申立てにより、裁判所書記官が嘱託抹消する。
「登記官の職権登記」「書記官の嘱託登記」「申請による登記申請」の3つです。
この誰から登記するのかについてのくわしい記事 →『職権登記・嘱託登記・申請による抹消登記』の中にも、『処分禁止(処分の制限)の登記』についてくわしく解説しています。
下記のリンクからどうぞ▼
02 所有権以外の権利の移転・抹消の処分の制限
先程は、所有権に関する処分の制限についてでしたが、ここからは、「所有権以外の権利」の「移転・抹消」に関する「処分の制限」についてです。
「所有権以外の権利」なので「乙区での権利」で、例えば、「抵当権」です。
【事例】
②乙区1番に、抵当権設定Xが入った
③そして、乙区2番で「抵当権移転請求権保全仮登記」Cが入った
④さらに、Cは、「処分禁止の仮処分」登記を入れた
⑤甲区2番に所有権Bが入った
甲 区 | 乙 区 | ||
1 | 所有権保存 ① A |
1 | 抵当権 ② X |
2 | 所有権移転 ⑤ B |
2
|
抵当権移転請求権保全仮登記 ③ C |
処分禁止の仮処分 ④ C |
▼
「保全すべき登記請求権(乙区2番:抵当権移転請求権保全仮登記)C」の本登記「抵当権移転C」を入れると同時に、「処分禁止の仮処分」に後れる登記を抹消することができます。
処分禁止の登記は誰が抹消するか?
「処分禁止の登記」を抹消するのは、場合によって、誰が抹消するのかが違ってきます。
→登記官の職権により「処分禁止の登記」は抹消される。
→仮処分債権者の申立てにより、裁判所書記官が嘱託抹消する。
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03 所有権以外の権利の保存・設定・変更の処分の制限
次は、「所有権以外の権利」の「保存・設定・変更」に関する「処分の制限」についてです。
これは、大きく2つに分かれます。
・不動産の使用・収益する権利
・・・に分かれます。
更に、「不動産の使用・収益する権利」の中でも、次の2つに分かれます。
b.後順位の使用・収益する権利としては抹消できない権利
1.不動産の使用・収益しない権利 「抵当権設定仮登記」を保全するための「処分禁止の仮処分」の登記がされた場合、仮処分債権者は「保全仮登記に基づく本登記」は申請できるが、仮処分に後れる登記を単独で抹消することはできない。
【理由】 「抵当権」は「不動産の使用・収益する権利」ではないから。 |
2.不動産の使用・収益する権利 a.後順位の使用・収益する権利として抹消できる権利 ①「保全すべき登記請求権」が『不動産の使用・収益する権利』で、かつ、
②後れる登記が、 ・『不動産の使用・収益する権利』 ・『不動産の使用・収益する権利』を目的とする権利(例:地上権を目的とした抵当権) ▼ 後れる登記を抹消することができる。 b.後順位の使用・収益する権利としては抹消できない権利
|
1.不動産の使用・収益しない権利
「抵当権などの担保権」の場合には、仮処分債権者は「保全仮登記に基づく本登記」を申請したとしても、「仮処分に後れる登記」を単独で抹消することはできません。
理由としては、例:抵当権は、「不動産の使用・収益する権利」ではないからです。
つまり、「抵当権」なら併存すること可能だからです。
【事例】
②Cは、甲区3番には「処分禁止の仮処分(乙区1番保全登記)」を入れた。
③乙区2番に抵当権設定Dが登記された。
甲 区 | 乙 区 | ||
1
|
所有権保存 A |
1
|
抵当権設定保全仮登記 (甲区3番仮処分) ① C |
2 | 所有権移転 B |
2 | 抵当権設定 ③ D |
3 | 処分禁止の仮処分 (乙区1番保全仮登記) ② C |
▼
⑤だが、この場合には、「乙区2番:抵当権D」は抹消することができない!
甲 区 | 乙 区 | ||
1
|
所有権保存 A |
1
|
抵当権設定保全仮登記 (甲区3番仮処分) C |
抵当権設定(仮登記の本登記) ④ C |
|||
2 | 所有権移転 B |
2 | 抵当権設定 D (※この抵当権は、抹消できない!) ⑤ |
3 | 処分禁止の仮処分 (乙区1番保全仮登記) C |
【理 由】
抵当権は「不動産の使用・収益する権利」ではなく、1番抵当権と2番抵当権は、併存することが可能だからです。
1番抵当権者のCにとって、2番抵当権者Dは、ジャマにはならない登記だからです。
2.不動産の使用・収益をする権利
例えば、「地上権」のように「不動産の使用・収益をする権利」の場合には、仮処分債権者は「保全仮登記に基づく本登記」を申請すれば、「仮処分に後れる登記」を単独で抹消することができます。
【事例】
②Aは、甲区3番には「処分禁止の仮処分(乙区1番保全仮登記)」を入れた。
③乙区2番に「地上権設定」Cが登記された。
④乙区2番付記1号に、「2番地上権抵当権設定」Dが付記登記された。
甲 区 | 乙 区 | ||
1
|
所有権保存 X |
1
|
地上権設定保全仮登記 ① (甲区3番仮処分) A |
余 白 |
|||
2 | 所有権移転 B |
2 付記1号 |
地上権設定 ③ C |
2番地上権抵当権設定 ④ D |
|||
3 | 処分禁止の仮処分 ② (乙区1番保全仮登記) A |
▼
⑥Aは、それと同時に「乙区2番地上権設定C」を抹消し、
⑦Aは、それと同時に「乙区2番付記1号地上権抵当権設定D」を抹消した。
⑧登記官による「甲区3番 仮処分登記」の職権抹消がされた。
甲 区 | 乙 区 | ||
1
|
所有権保存 X |
1
|
地上権設定保全仮登記 (甲区3番仮処分) A |
地上権設定 ⑤ A |
|||
2 | 所有権移転 B |
2
付記1号 |
地上権設定 ⑥ C |
2番地上権抵当権設定 ⑦ D |
|||
3 | 処分禁止の仮処分 (乙区1番保全仮登記) A |
3 | 2番地上権抹消 ⑥ 原因 仮処分による失効 |
4 | 3番仮処分登記抹消 ⑧ | 4 | 2番地上権抵当権抹消 ⑦ 原因 仮処分による失効 |
a.後順位の使用・収益する権利として抹消できる権利
仮処分登記に後れる登記で「使用・収益する権利」として抹消できる権利は、次の3つです。
②永小作権
③賃借権
b.後順位の使用・収益する権利としては抹消できない権利
逆に、同じ仮処分登記に後れる登記でも、「使用・収益する権利」として抹消できない権利は、次の3つです。
②不動産質権
③地役権
①区分地上権
区分地上権を設定する段階で、利害関係人(例:既存の地上権者)の承諾を得ているので、今さら抹消も何もないから。
②不動産質権
一見すると使用・収益するんじゃないの?と思えるけど、「抵当権」と同じように担保権扱いだから。
③地役権
地役権は、使用することはするけど、その一部だったり、そもそも他の地役権とも併存できるから。
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まとめ
処分禁止(処分の制限)の登記をまとめると、3つの場合に分かれます。
・所有権以外の権利の移転・抹消の「処分の制限」
・所有権以外の権利の保存・設定・変更の「処分の制限」
この3つの処分禁止(処分の制限)の登記について、わかりやすくまとめた表が次のとおりです。
所 有 権 | 所有権以外の権利の 移転・抹消 |
所有権以外の権利の 保存・設定・変更 |
甲区に処分禁止の登記 | 乙区に処分禁止の登記 |
・甲区に処分禁止の登記 (例) |
保全すべき登記請求権の登記と同時に、 「処分禁止の登記」に後れる登記を抹消できる |
①保全すべき登記請求権が不動産の使用収益する権利
|
|
【処分禁止の登記の抹消】
「処分禁止の登記」に後れる登記の抹消申請があった場合 「処分禁止の登記」に後れる登記を抹消しなかった場合 |
登記官の職権抹消
【理由】 |
以上、今回の記事は、処分禁止(処分の制限)の登記『処分禁止の仮処分』についてをまとめた記事でした。
3つの場合に分けて、しっかり見ていってください。
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